院長ブログ

2019.03.13

百代の過客

2/24にドナルド・キーン氏がなくなったというニュースを聞いて、
日本文学研究者である氏の著書を読みたくなった。
図書館で一覧を見ていると”百代の過客”という題に惹かれたので、借りて読んでみた
この本は平安時代から江戸時代までおよそ千年にわたる日本の日記文学を解説した本です。
アメリカ人の彼に言わせると、日本以外の国での日記の役割は主に記録であるのに比べ、
日本にとってはそれは文学作品として読み継がれている。という違い、
このことが日記を研究する理由の一つだったらしい。

日記というのに日付も付けず、ただひたすらに源氏物語にあこがれ
物語の世界へとのめりこむオタクぶりを発揮している更級日記や
60代の息子の中国留学を嘆くだけの84歳母の執念の日記。。。
など、西洋人の目でその特徴を紹介されています。
しかし昔の日記作者も現代の日記=ブログ作者と同様、
他人に読まれること前提で書いてはいるはずだろうに、
夫への愚痴だけを書いた妻の日記が千年以上も読まれていると知ったら、
蜻蛉日記の作者は何と思うのだろうか?

本の題は松尾芭蕉の「月日は百代の過客にして行きかふ年もまた旅人なり」
”奥の細道”の冒頭から採られたのものです。
この究極の紀行日記で芭蕉が表現した日本の美、それは芭蕉よりもっと古の歌人が見ていた美を
千年を越えて日本(人)の中に見出したからキーン氏はこの題をつけたのだろう。
つまり”百代の過客(永遠の旅人)”なのだ。

最後に、キーン氏が日本の日記文学に興味を持ったもう一つの理由は
太平洋戦争の戦地で、遺棄された日本軍兵士の日記を翻訳するアメリカ兵として従軍していたからだと、
この本の序文に書いてあった。きっと故郷を思って書いたであろう兵士の日記の翻訳は、
その後、日本文学に流れる郷愁を知る良い経験になったのであろう。
そう思えば、日本に帰化し日本人として死んでいったキーン氏を偲ばずにはいられない。

夏草や兵どもが夢の跡(芭蕉)
The summer grasses-
Of brave soldiers' dream
The aftermath (ドナルドキーン、英訳)