院長ブログ
2019.12.11
貧困の問題
1日大体200円以下で生活しなければならない人は、70億の人類のうち10億人だという。
そういう発展途上国の貧困問題を扱った本を今回は紹介します。
貧困問題は先進国の富める人たちの「援助して貧困のワナから救ってあげよう!」という意見と
「援助は貧困者を堕落させ、自立することを困難にするから悪影響!」という意見がいつもぶつかっています。
どっちが良いと白黒をつけるのではなく、個々の問題にいろいろ試して
”より良い”支援を模索する内容です。
食事と健康について
貧困者は飢えているというイメージでいるかもしれないが、実際はそうでもないようです。
1日100円くらいで生活しなければならない極貧者でも、食事に使うお金は3割から8割で、
実際貧困者に食料購入の援助をしても、それをすべて食費に使うのではなく、
タバコやアルコール、お祭りへの支出に費やす傾向を知りました。
著者たちはこの貧困者たちの行動に
「けしからん!援助されているのだから嗜好品などもってのほか!ちゃんと食べて働いて自立しなさい」とは考えず、
ならばどのような食糧支援が効果的なのか考えていきます。
どの世代にどんな支援をすると効果的なのか?
労働者にカロリーを10%増やしたとして、生産性は4%しか増えないけど、
同じような労働者に鉄分入りの調味料を与えると
与えられていない労働者より年間46ドル(大体5000円くらい)収入が上がります。
さらに妊婦にヨウ素のサプリを与えた子供は与えなかった子供より半年くらい長く学校に通うそうです。
もちろん長く学校に通って読み書きを覚えた子の方が、そうでない子より将来の収入はよいです。
このように食べる量より、質をちょっと改善することで生活が豊かになることは判明しました。
だけど、貧困者は貧困から脱出する素晴らしい計画に平気で反抗してきます。
「健康なものより、美味しいものを食べたい」
「食べ物より、結婚式やお祭りにお金をかけたい」
読み進めていくと「なんで、そこでそれを言う?だから貧困のワナにはまるのよ!」と突っ込みたくなるが、
著者たちはあくまで冷静に微量栄養物をいれた塩とか、
みんなに人気のある食事に栄養を付加するなど、意識しないで取れるように後押ししています。
健康面でもいろいろな試みから得られた事実を提示してくれます。
寄生虫の虫くだし2年飲んだ子供は1年飲んだ子供に比べ通学期間が長く、将来にわたって20%多く稼ぐ。
マラリアに感染しなかった子供はかかった子供より50%年収が多い。
マラリアを運ぶ蚊に刺されないよう蚊帳を使えば収入は15%上がる。
予防接種は乳幼児の死亡を減らせる。などなど。。。
マラリアや下痢の予防は水に決められた量の塩素を加えるだけだし、
蚊帳は数年ごとに買い替えればいいのに、予防接種はその場所まで行くだけなのに貧困者の間に浸透していきません。
予防接種、ちゃんと必要な回数打つお母さんは38%だそうです。
著者らはこういう行動を責めるどころか、予防接種を受けると豆(ご褒美)を配布する事業を進めています。
もので釣って予防接種を受けさせるのは、干渉しすぎではないかと異論が出るのですが、
とにかく社会が受け取れるメリットに焦点を合わせます。
集団免疫に必要な90%の接種率なんて程遠いけど、自分の子だけでなく周りの子も助ける。と。
将来の稼ぎが増えますよ!と言われたって、今、予防接種に行くのめんどくさい。に誰だって負けてしまう。
だって、日本で6月から始まった風しんの抗体価が低い40~55歳くらいの人の検査と免疫がなければ予防接種に
いったいどれくらいの人が病院に行っているでしょうか?
「行かなきゃな、でもめんどくさいな」と思っている人も沢山いると思います。
そういう意味では心理的に先進国の人も貧困者も変わらないのではないでしょうか。
著者は干渉について“貧乏なら努力しなさい”と先進国の人は思うかもしれないけど、
蛇口をひねればきれいな水が出て、下水は勝手に流れ、
予防接種受けなさい!という政府はある程度信頼できて、
今日を生きることに決断力を使わなくてよい状況だって、
知らずに干渉を受けていることだと、貧困者の生活と選択を非難せずに認め対策を探します。
貧困問題を“こうあるべき”から“こうである”の視点で見つめたこの本の著者、
アジビット・バナジーとエスター・デュフロは今年のノーベル経済学賞を受賞しました。
邦題は「貧乏人の経済学」です。
沼津市立図書館にありますから、興味ある人はどうぞ。今なら4週間借りられます。