院長ブログ

2020.10.18

ハーロウの子ザル

コロナウイルスの感染予防のために、3密を避け、人との距離を確保し、マスクをするなど
人との接触を減らした”新しい生活様式”がすすめられている。
リモートワーク、Web会議といった流れを医学学会も受けて、
この秋の耳鼻科の学会も現地参加に加え、
Web参加という新しい学会様式での開催となった。

初めてWebでの学会を経験して、講習を落ち着いて聞ける点がまず良かった。
2日間の学会で午前午後2コマずつの講習を受けると頭がいっぱいいっぱいだけど、
Webではオンデマンド配信なので、
限らせた期間(約3週間)で受けたい講習を受ければ良いのだ。
また現地の会場は机がなく、今までは学会の予定表に大事なところをメモする時間しかなく
あとから見返しても「これなんだっけ?」となっていたが、
Web参加では、講義で気になったところを一時停止して
頭の中をこなし次に進むことも許される。確かに便利だ。
ただ、久しぶりに会う人と現地の名物を食べたり、観光したりといった
”よく学び、よく遊べ”の遊びの部分が削られてなんだか不完全燃焼だ。
それに講演ビデオを見ても、原稿を読んでいるせいで言葉に抑揚がなく、
伝えるパワーが削がれているので、こちらも心を燃やせない。

『ハーロウの子ザル』と呼ばれる有名な(悪名高い?)実験を紹介しよう。
生まれたばかりのアカゲザルを母親から引き離し、
母親の代わりとして一体はワイヤー、一体は布で作られたものを与えた。
どちらの代理母に哺乳瓶をつけても赤ちゃんサルは多くの時間を
布母さんと過ごしたという。ワイヤー母さんのほうに行くのは
ワイヤー母さんだけに哺乳瓶がついている時で、
それもミルクを飲んでいる時間だけだったという。

halo.png 

コロナのせいで、世界中が『ハーロウの子ザル』実験を受けているように私には思える。
子ザルにとって布の肌触りは一匹で不安だった心を慰めていたように、
私たちも人とのかかわりで心を安定させているのかもしれない。
ある動物学者に
「人間を動物園で展示するには、どうしたらいいと思いますか?」と尋ねたところ
「一人ではだめだ。集団で展示しないと」と答えたという。
今回のような学会のスタイルにはなっていくのだろうけど、
元のように、現地の学会に参加したいものだ。

しみじみそう思っていると、スタッフも
「そうですよ!やっぱり現地に行って欲しいなぁ、どんどん行ってください!」
と後押ししてくれた。
「そうか、私の趣味で買ってくるご当地土産を、楽しみにしていたんだなぁ~」
と感慨にひたっていると、
「だって、Webだと休みになんないんだもん」
そ、そうきたか。