院長ブログ

2021.07.05

がいじ道

外耳道は同じ皮膚なのに、顔の皮膚と比べ粗末な扱いを受けている。
それどころか、綿棒や耳かきでゴリゴリこすられる。
顔は泡洗顔なのに。。。

まず外耳の進化について考えてみよう。
水に住む魚ならば水の振動を感じるだけでよかったけれど、
陸に上がったから空気の振動を伝えるシステムが必要になった。
それが中耳である。
そして鼓膜に音を効率よく伝えるためにあるのが今回の主役”外耳道”である。
陸に上がったばかりの両生類は鼓膜がほとんど表面にある。
は虫類、鳥類はちょこっとくぼみがあるだけで、
哺乳類になるとはっきり外耳道ができてくる。
進化で外耳道が長くなったのは鼓膜を守るためだといわれている。
決して、耳掃除を楽しむためではない。
次に、外耳道は2つの部分に分かれている。
一つは軟骨部外耳道といわれ、もう一つは骨部外耳道といわれ、
二つ合わせて大人なら約3cmほどの外耳道をなしている。

(自分の本から)

この二つの違いは皮フの違いでもある。
軟骨部外耳道には毛が生えており皮脂腺と耳垢腺がある。
この耳垢腺はアポクリン汗腺と言われ、独特の匂いを持つ。
自分で耳かきをした後、ついつい匂いを嗅いでしまう人はいないだろうか?
私はついつい嗅いでしまうのだが、私の匂いがします。。。
ものの本で読むと、この耳アカは苦いらしい。
ドイツの言い伝えではハサミ虫は後ろ向きに耳に入って、
鼓膜を切り刻み、耳から脳に向けて進み卵を産みつけるらしいです。
ちょっと、ホラー映画にできそうな言い伝えですけどね。
でもそんなことにならないのは、苦い耳アカが虫を退散させるのよ~めでたしめでたし。
ということで、耳アカは苦いらしい。確かめたことは無いが、誰か確かめてくれませんか?


(子供の耳に入り込んだ虫。看護師さんの探求でセマダラコガネと判明)

話は戻り、骨部外耳道の方は毛や皮脂腺がない薄い皮フが骨とがっちりくっついている。
普通皮フは角質層とか何とかの4層構造だが、
ちゃんとした4層構造でもなく、ただただ薄く骨に張り付いている。
じゃあ皮フの老廃物はどうなるの?という疑問がわかないだろうか?
骨部外耳道の皮フは奥(鼓膜)から入口に向けて動くという自浄作用を持っている。
まるで動く歩道みたいに、入り口に向けて皮フが移動するので、老廃物はたまらない。
そして終着地、軟骨部外耳道に移行する時に皮膚の老廃物が剥がれる。
耳アカはこの老廃物と耳垢腺から出た自分の油が混ざったものだ。
ちょっと、耳アカが愛おしくなって来ないだろうか?


(奥の鼓膜から手前の軟骨部外耳道まで耳垢がない。軟骨部外耳道から毛や垢がある)
まだ研修医のころ、大学病院からほかの病院の応援で仕事に行ったとき、
その病院の先生が、「僕の耳掃除してよ」と診察前に耳掃除をする羽目になった。
掃除しながら、これは耳の処置を任せてよいか判断するテストなんだと気が付いた。
私のアポクリン腺から変な汗が出ていたかもしれない。
後にも先にも自分の耳掃除で研修医を評価する医者はこの先生だけで他に出会ったことは無いが。
思い出しついでと言っては何だが、やはり研修医のころ、その病院の副院長の耳掃除をすることになった。
ただでさえ偉い先生で緊張しているのに、ちょっと外耳道に触れるだけで咳が出るので、
道具がなるべく外耳道に触れないように気を使った。やはり変な汗をかいていただろう。
外耳道の話から病気についても書くつもりでいたが、ずいぶん長くなってしまった。
もう、こんなに外耳道、外耳道と書いていると、
貴乃花なんかが言う「すもう道」的な思いが私の中でとめどなくわいてきている。
皆様には是非、今回を「がいじ道」、次回は「続・がいじ道」として読んでいただきたい。