院長ブログ
2021.10.24
仕事の神様
この仕事について今年で28年になった。
いろんな人と話すわけで、思わぬ経験をすることも多い。
「昨日から鼻とのどが詰まった感じがある。
鼻で息ができなくて、昨日寝ようとしたときに苦しくなった」
という訴えでその患者さんは来院された。
いろいろな可能性を考えて質問してみる。
まず、この時期だからアレルギーの可能性はどうだろう?
鼻水は出ないし、鼻アレルギーで困ったことはないそうだ。
だったら可能性は低いだろう。
次に寝ているときに息が止まる睡眠時無呼吸症はどうだろう?
体型は中肉中背で肥満ではない。あごの作りも小さくはないから、
睡眠時無呼吸症の可能性も低そうだ。
それに”寝ていると”ではなく”寝ようとしたとき”に鼻で息ができないのだし。。。
話だけでは病気が絞れないから、実際に鼻の中、のどの奥を見て原因を探せないだろうか?
ということで内視鏡をのぞいてみた。
鼻は内視鏡がスムースに入る。極端に狭くなっているところもない。
のどの入り口が仰向けで塞がってしまうほどの厚みもないし、
気管の上が狭くなっていることも、寝るような体勢でそこが狭くなる状態でもなかった。
逆流性食道炎はどうだろう?
食道入口の粘膜にその証拠は内視鏡では見られなかったが、
生活習慣の中に逆流性食道炎の芽が潜んでいるかもしれない。。。
が、聞いても潜んではいなかった。
結局内視鏡でも症状に見合うのどの異常を見つけられなかった。どうしたらいいのだろう?
困ったときのストレスか?でもストレスを感じることもないという。
最初からその患者さんは、昨夜の苦しみを冷静に説明するタイプだから
ストレスで体がどうのこうのという人でもなさそうだ。
答えを見つけられない私の方がストレスを感じる始末だった。
う~ん、う~ん、と困っていると、「息苦しくて、ドキドキして不安なんです」
(キターーー!!!)このセリフは私にとってチャンスボールだ。
この”息苦しい””ドキドキ”を客観化できれば問題解決に近づくだろうし、
客観化できなければ”自分が生み出した感覚”ということになり、そこからまた崩していけばいい。
指に酸素飽和度のモニターをつけてみると。。。
”酸素飽和度97%、脈拍150”
思わず「ドキドキしているね」といってしまった。
「僕はいつも脈拍は120くらいですよ。あ、そういえば不整脈でカテーテル手術をしたことがあります」
(解けた。。。)患者さんには鼻やのどは大丈夫であること、
脈が速いから息苦しい不安が出たのだろうと手術をしたという病院に耳鼻科としての見解をしたためて紹介した。
先日その病院から「心房粗細動:このための不安感と思います。ご紹介ありがとうございました」と、私が紆余曲折の上たどり着いたのとは違い、ずいぶん短い返事が来た。
感情と表情の研究者ポールエクマンによると、
必ずしも感情が先で表情が後ではないのだそうだ。
うれしいから笑うのではない。笑うからうれしいのだし、
悲しい顔をしていれば、物事を悲観的にとらえる。
不安でドキドキするのではなく、ドキドキしているから不安なのだ。
こんなふうに、結局は耳鼻科の病気ではないけど
耳鼻科に来る患者さんには思わぬ経験をさせられる。
時折こういう患者さんたちは、私を試すために仕事の神様が送った”使いではないか?
と思うこともある。
神の使いは教科書通りに「動悸を感じます」とは言ってこない。
いろんな表現を表情をして私を困らせ試している。
私以上に困っている神の使いの体に私は憑依して、体で起こっていることを神の使いに伝える。
。。。やっていることはまるで恐山のイタコだね。