院長ブログ

2022.01.23

読む禁煙外来(後篇)

依存症とは「悪影響があるにも関わらず、継続的に何かを使用すること」と定義される。
喫煙者だって、タバコが体に悪いとは知っている。
ダイエット中の人も、甘いお菓子が今までの苦労を台無しにすることを知っている。
運転中の人もスマホの音に反応すると道路交通違反と知っているし
事故を起こすと車の修理にとってもお金がかかることも知っている。
知っているのに、なぜ、悪影響ある行動に走るのだろうか?
ここで、原始時代に戻ってみたい。
生き延びるためには食べ物が必要だろう。
食べ物を見て興奮し、食べ物が採れた場所を記憶することはサバイバルに大切な能力だった。
また飢えたら、この前の食べ物が取れた場所に行けばよい。
「食べたい⇒食べる⇒満たされる」これを繰り返すことで記憶が強固になっていく。
このサバイバル能力こそが依存症をつくりあげる。
喫煙の場合「吸いたい⇒吸う⇒イライラ解消」かもしれないし
スマホの場合は「見たい⇒見る⇒連絡きてる!」かもしれない。
どれも「欲望⇒行動⇒報酬」を繰り返し「欲望⇒行動⇒報酬」の繰り返し。
こういう風に強化されてしまった悪習慣が依存症の正体だ。
このからくりに気が付くことから禁煙(悪習慣を断つこと)は始まる。
次に自分を見つめてみよう。
”欲望のきっかけになるものは何だろう?”
”一連のこの習慣から私は何を得ているのか?”
テレビを見ながらとか運転しながらではなく集中して考えてみよう。
集中することはとても難しい。だからこれを考える前には音を消し、背筋を伸ばして座り、目を閉じて3分ほど深呼吸し呼吸だけに集中してみよう。集中力が高まるというか、いかに自分の頭のなかが雑念だらけか気が付くと思いますよ。
私もヒマな時間についついスマホを触ってしまってニュースを読み(最近は東出の独立の記事)、その関連記事(養育費1万とか。。。)を次から次へと読んでみたい欲望に駆られる時がある。
そんな時「この記事が私に何のプラスをもたらすの?」と自分に聞いてみる。
私に(どころか元の奥さんにさえ)プラスをもたらさない記事の無意味さに気が付くことで、スマホに触るのを自然と止められる。
自分を見つめる癖がついたら、次に欲望が湧いたときにそれに気が付くことができると思う。
「あっ、自分タバコを吸いたいな。と思っている」という具合に。
その時に、そう思った自分を”悪い”とか”しょうがない”とかジャッジしないで「ああ、欲望が湧いているんだな」と受け入れよう。
そして欲望にすぐに反応するのではなく、どう変わるのかわくわくしてしばらく観察してみよう。
どうしようもなく吸ってしまっても遅くはない。吸ってしまった自分を攻撃することは不要だ。吸った感覚、味、匂い、感情の変化を興味を持って観察すればよい。
この観察を書き留めておき、後から読み返せると悪習慣を断つ効果は倍増するだろう。

禁煙外来をやっているときに、「吸いたいと思うんですけど、その欲望ってずっとじゃないんですよね。吸いたい気持ちをしばらく放置しておくと、無くなるんですよ。それに気が付きました」
と私に説明してくれた患者さんがいた。絶対この人は禁煙成功するだろうな。と思った通り、3年が経つ今でも禁煙は続いている。
繰り返される「欲望⇒行動⇒報酬」を輪廻というなら、解き放たれればそこは解脱の世界。
先の3分間の呼吸に集中することは瞑想と思えば瞑想だ。
だとしたら、この禁煙法は2500年続いているお釈迦様推薦の方法とも言えるだろう。