院長ブログ

2022.03.16

ボーカル2

のどの働きは何だろうか?
魚にとっては食べ物が通る場所で、両生類以降は空気をとおす役割もある。私たち人間には会話をするのに必要だ。なんて、めんどくさいことを言わなくても、食べる、呼吸する、話す、は生きていれば実感できるだろう。
食べ物が誤嚥(むせること)しないように、食べ物は食道へ、空気は肺へとうまく振り分けてくれているのが”喉頭”という場所であり、発声の中心でもある。
男性の首には”のど仏”があるが、これが喉頭の枠組みの部分で、首や胸と筋肉でつながっており上下に動くことができる。この枠組みの中にあるのが声帯で粘膜と筋肉でできている。
人間の聞こえる範囲の16ヘルツから16000ヘルツまでくらいで、
この範囲の音をたった長さ2cmの楽器=声帯が作るのだから人間の体はすごい。
吐く息で声帯を震わせ、喉頭を上下することでのどの空間を変え音程や響きを加える。
試しに喉頭に手を軽く添えて”ドレミの歌”を歌ってみて欲しい。
♪ソ~ド~ラ~ファ~ミ~ド~レ~♪喉頭が上下しないだろうか。
(声帯の画像。左の画像は左声帯に小さいのう胞らしきものがある。右の声帯は正常。
正常な声帯は象牙のような白さです。左の画像は声帯と声帯の下が炎症を起こしている。
どちらも”声がかれる”で受診された)

永ちゃんの「やっぱりさ、ボーカルってのは筋肉だから」という言葉は実は深い。
ビデオを見直すと、歌うことでの声帯の筋肉を鍛えているだけではなく、胸郭を広げる筋肉も鍛えていた。声量を維持するために、楽器としてかかわる部分をまんべんなく鍛えているのだろう。地味なトレーニングだった。
確かにどのボイストレーニングの本も最初は正しい腹式呼吸から始まる。
自分の体を楽器とみたてて、力みなく筋肉を使うにはリラックスする腹式呼吸をマスターするのが最適なのだろう。深い呼吸を続けていくと、自分がリコーダーからクラリネットになった気がする。明日からの声が楽しみだ。


(上の写真に比べると声帯が細い。肉がなく、枠組み部分の軟骨が目立つ。
この患者さんも訴えは”声がかれる”だった)

配偶者をなくして会話をしなくなった。や、年を経てから体重が減ると声帯周りも痩せてくる。
こんなふうになってから「会話しましょう。歌いましょう」では遅い。
衰えてからはリハビリになり、なかなか元には戻らない。
それよりまだ声が出るうちに使って維持したほうが良い。
もう一度、喉頭に手を添えて、今度は唾をのんでみて欲しい。喉頭が上がるのに気づいたろうか。
次に喉頭を手で無理やり下げたまま水を飲んでみよう。といってもうまく飲み込めないだろうが。
永ちゃんの「声を出して、出して、出しまくるしかない」は本当にその通りだ。
声の老化を防ぐだけでなく、誤嚥やそれに伴う肺炎をも防いでくれる。
老化にあらがう反骨的な教えと考えれば、ロックンロールだなぁ。