院長ブログ
2022.05.18
ゾレアについて
ローマ帝国は多神教の国で、最盛期には30万の神がローマに棲んでいたという。
そのうちの一つヤヌスは門や入口の守り神で、戦いの神でもあり創世期の他の部族との争いも多かった生まれたばかりのローマ帝国では、ヤヌスに捧げた神殿を建てた。
一方、日本は八百万(やおよろず)の神の国だから、杉浦幸主演のドラマ”ヤヌスの鏡”に青春を捧げた人もいると思う。というのは冗談だが、”ヤヌスの鏡”では主人公が2つの人格を持つことから反対方向を向いた二つの頭を持つヤヌスがインスピレーションされたのだと思う(間違っていたらゴメンナサイ)。
ローマでは、ヤヌスの神殿は入口と出口が戦時には開放され、平和になると閉められたという。
私は毎年自分の花粉症の症状が出なくなる、つまり時期が終わるとヤヌスの神殿が閉められるような感覚になる。
花粉症でお悩みの皆さんはどうでしょうか?そんなイメージ無いでしょうか?
とはいっても昨年までと違い、舌下免疫療法中の今年の私は”戦う”という表現は適切ではなかった。
洗濯物は晴れた日は常に外に干していたし、どうにも止まらない鼻水はほとんどなかった。
ヒノキ花粉になった4月に20分ほど鼻水が止まらなかったが、これが今シーズンのマックスだったと思う。”戦う”というより”なじむ”という表現が適切なシーズンだった。
さて、以前のブログで約束したように、もう一つの治療薬”ゾレア”について今回は報告したいと思う。
ゾレアは喘息や慢性蕁麻疹に使われていた治療薬で3年前から重症の花粉症の注射治療として使えるようになった。
高価な治療薬であるため、基準が厳しいけれど、当院では今シーズン8人に治療した。
このうちの7人は以前から花粉のシーズンに治療していて「前年も重症で飲み薬と点鼻薬を処方されている」という重症度がわかっている患者さんだ。
うち4人はシーズン中ではなくて、実は前シーズンの終了後からゾレアの計画を立てていた。
中には受験生で、花粉のシーズンが少しでも楽になり試験に実力を発揮したい!ということで
2月の初めごろに受診してもらって受験に備えた子もいる。
後の3人は毎年使う薬の量が多く、症状も重症のため、こちらからゾレアを提案した患者さんだ。残りの一人は他院で注射治療を希望したがやってなく当院を受診した。
お薬手帳で昨年の治療内容が把握できて、問診で重症が確認できたから次のステップに進んだ。
次のステップは採血。
8人全員が採血結果でも重症の花粉症という結果だった。そしてこの採血結果でゾレアの量が決まる。うちでは最低で4週ごとに1本。最高で2週ごとに4本。
4本ということは1回の治療で4か所注射されるということだ。
「え~痛いから、4本のところ2本でいいです」という生半可な訴えはゾレアは認めてくれない。
しっかりとした基準の枠があってその中に入らないと適応にならないのだ。
そんなこんなで2か月、8人それぞれの本数を注射し、全員が来年もできればやりたい!と答えてくれた。私もいつもの年より楽そうな鼻の中を見てゾレアの効果は実感できた。
が、一方でいかにゾレアといえども根治治療ではなく、治療費も高価なため8人中6人が舌下免疫もやりたいという気になったようだった。
今年のゾレアと舌下免疫療法は共存しうる。という感想を得た今シーズンだった。
さて、ヤヌス(Janus)は物事の始まりの神でもあり英語の1月Januaryの語源でもある。
花粉症ひどい3月は軍神マルスに語源を持つMarch。
ローマ帝国にも花粉症があったのかしら?