院長ブログ

2022.09.06

感情の進化

今年のツバメは6匹のヒナを産んだ。
「この中の誰がうちに来るのかな?」とこっそりヒナに話しかけていたが、昨年みたいなことは起こらず、夫婦で6匹を無事育て上げた。
ある日の夕暮れ、巣に近い階段の手すりで夫婦並んで巣を背にして佇んでいた。
もう数日で巣立つであろうヒナたちは寝ている。今日の給餌が終わった2羽がまるで、「今日も無事に終わったね」「一日お疲れさまでした」と会話しているようだった。
子育てをとりあえず1日終えた夫婦のしみじみとした幸福感を2羽の背中で感じた私だが、ふと思った。「ツバメ(鳥類)に感情はあるのだろうか?」
犬を飼っているスタッフに聞くと、「もちろん感情はある!」と言う。
は虫類を飼っているスタッフも「気に入ったエサなら寄ってくるし、気に入らないと怒るしで感情はありますよ」とのことだ。魚類は?さかなクンに聞いたら「ある」と答えるかもしれない。
生物に感情がある/ないの線引きは進化をどこまでさかのぼればできるのだろうか?
例えばゾウリムシ。表面の繊毛はストレスで抜けるそうだが、これは感知や反応であってそこに感情や心はない。
細菌も栄養を得るための陣地獲得を他集団と争うが、そこに憎しみ、怒りなどの感情はないだろう。けれど、単細胞生物の時代から備わっているこれらの感知や反応こそが、感情の源になったと考えられている。

感情の進化を考えてみよう。
単細胞生物が持っている、感知や反応をもっともっと鋭敏に、正確にするために神経系が生まれた。そう、私たちは頭で考えがちだから最初に脳(神経系)が作られたと思っているが、それは違う。脳ができる前に、栄養をのための消化器、体液をめぐらす循環器などができている。その時に脳はまだできていない。
神経の最初はイソギンチャクのような腔腸動物から始まった。腸を滑らかに動かし、栄養を吸収し、毒を身体に取り込まない。
これらの働きの感度を上げてみよう。
腸の入り口で、栄養か?毒か?わかればもっといい→味覚
体に入る前、匂いや触ってわかればもっと安心→嗅覚、触覚
遠くにいる生物から出る音を聞けるようになれば、敵である場合は逃げられるし、食べ物である場合は栄養が取れるだろう→聴覚
自分の周りのことが正確に見えれば、見えないものと比べ生存に有利だろう→視覚
感覚が進化して研ぎ澄まされてくると、生物の感知や反応が感情になっていった。
そして感情を持つことは生物が生存し、繁栄するのに好都合だった。
恐怖で敵に近づかない。子孫ができたときの喜び。お腹がいっぱいになった時の満足感。危害を加えるものへの怒り。
そして研ぎ澄まされた感覚を統合するために脳ができた。
感情を通じて脳(神経系)とそれ以外の体は会話をしているのだろう。
だとすれば、脳(神経系)が発達している生物には感情はあるのではないだろうか。
ツバメにも感情はあるだろうし、昆虫にもあるかもしれない。

6匹を育てた後、夫婦は巣をもう一度リフォームして再度子作りをした。しかし今度のヒナは何者かに巣から放り出され、最後の1匹が落とされた後にメスは巣を後にした。
胸がつぶれる思いだったろう。