院長ブログ

2022.10.26

やつらの足音

ウキペディアによると、はじめ人間ギャートルズの主人公ゴンは原始時代に生きるクロマニヨン人で、内容は酒好き父ちゃんとヒョウ柄ワンピースのかあちゃんら家族や生き物とのハチャメチャを描いたギャグマンガである。
ゴンの友人にゴリラのドテチンがいて、他の動物とゴンの通訳をするときもあった。
アニメの設定はクロマニヨン人とゴリラだけど、20万年前ごろは、何種類かの人類が同じ地球で生活していた。と、書くと”はぁ?”と思うかもしれない。
今の私たちは人類(ホモ属=ヒト属)の中でもサピエンスという種に当たる。
20~30万年前はホモ・エレクトス(直立した人類)、ホモ・ネアンデルタレンシス(ネアンデル谷の人類)がまだ絶滅していなかった。犬の世界を考えるとわかりやすいかもしれない。現世にはチワワもブルドックもゴールデンレトリバーもいる。が、ホモ属の現世は私たちサピエンスという種だけだ。
ところで、ブログを乗せるときは必ずうちの看護師さんに下書きを読んでもらいアドバイスをもらうのだが、今回のブログ(大幅に書き直す前)を読んだ後、「サピエンス、サピエンスって難しい単語ばっかりで頭に入ってこない!」と遠慮のない感想をいただいた。私たちホモ・サピエンスが”賢い人類”という意味であることは伏せておこう。
ということで今回のブログではホモ・ネアンデルタレンシス=ネアンデルタール人にまつわる話をしたい。
(ネアンデルタール人のイメージ)
ネアンデルタール人はシベリアなどの寒い地域で発展していった。
私たちより大柄でマンモスなどを狩って生活していたため、野蛮で鈍重なイメージを持たれてはいたが、近年は、障害がありながら長らく生きた骨の化石から、仲間の面倒を見る優しい人類だったと推察されている。
私たちの祖先はアフリカからアジアやヨーロッパに流れ着いたとき、先住のネアンデルタール人と出会った。そこから何万年もたってネアンデルタール人は絶滅してしまった。この間に何が起こったろうか?想像するのも楽しい。
歴史に見られるサピエンスの同種に対する残虐さや、絶滅させてしまった種や現在絶滅危惧に陥っている種のことを思うとネアンデルタール人に寛容だったとはなかなか思えない。
一方、ネアンデルタール人相手にロミオとジュリエットが演じられた可能性だって捨てきれない。どっちだろうか?
この想像にも一定の答えが出た。ネアンデルタール人の遺伝子をネアンデルタール人の化石から取り出せばいい。そして現世人と比べればいいのである。と書くのは簡単だが、化石についているカビ、菌、化石に触れた人々などなどの多くの不純物を避けて、ネアンデルタール人のだけを取り出すのは至難の業で、ネアンデルタール人の遺伝子情報(DNA)を解読して、人類進化の謎を解き明かす!と志してから30年かかったそうである。
これらの古いもの、わずかしかない試料から遺伝情報を取り出す技術は現在DNA捜査に応用され、冤罪から無実の人を救い、また真犯人を特定できるようになった。WOWOWのコールドケースはこの技術がなければ生まれなかったドラマだろう。
もう一つ、希少動物のDNA保存が糞などから可能になった。それまでは麻酔で眠らせて血液を採取するか、殺すかしかなかったが、彼らを煩わせることなく調べることができるようになった。希少動物たちもこれを知ったら科学の進歩を喜んでくれるだろう。
そして2010年、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、北アメリカの人種には1~4%のネアンデルタール人の遺伝子が入っていることが発表された。ネアンデルタール人とサピエンスの間には子供がいたのだ。そこには略奪だけではない純愛もあったであろうと信じたい。
実はネアンデルタール人はネアンデル谷の洞くつで発見された。それはドイツにある。
もし、時代が70年程早く進んでいて、アーリア人の血にネアンデルタール人の血が混ざっていたと知ったらヒトラーはどう思っただろうか?
ヒトラーの顔が赤くなるようなこの仕事こそ、今年のノーベル医学・生理学賞を受賞した研究である。受賞理由は「絶滅したヒト科動物のゲノムと人類の進化に関する発見」である。