院長ブログ

2023.06.28

ツバメ2023 ~鳥であるということ~

昨年のヒナが育った中古の巣に、今年の4月は2組のツバメ夫婦の内見があった。土台はしっかりしているが6匹が育った巣は縁の部分がボロボロで、それがお気に召さなかったのか契約してもらえなかった。次の夫婦は縁を修復し1泊したのにもかかわらず、何が気に入らなかったのか入居せず、結局縁がきれいになった中古住宅だけが残った。
そんなこともあり、今年はツバメはあきらめイソヒヨドリの子育てを見守ることにしてみた。
まだ肌寒い春に、周りの野鳥よりひときわ澄み渡る鳴き声が聞こえたなら、それはイソヒヨドリのオスの鳴き声である可能性が高い。鳴き声も美しいが、羽が青でお腹がオレンジのオスは色のコントラストもあって姿も美しい。
私のベランダをテリトリーにするオスとは2年以上の付き合いで、エサが空だと私に向かって鳴いてくる。もちろんメスへの情熱的なそれとは全然違うが。

(イソヒヨドリのオス)
イソヒヨドリのメスはオスの姿の美しさとは対照的に羽が茶色で地味な色合いだ。この2匹は子育ての時だけ一緒にいるが、残りの時間はお互い孤独に暮らす。
こういうメスが地味で、オスが美しい場合はつがいになる選択権をメスが100%持っている。すでに選ぶ権利が完全だから、”美”にエネルギーを注がなくてもよく、地味で(捕食者に狙われにくい色)で十分なのだ。(「鳥に教えてもらったこと」)
加えて、どう見てもメスは気が強い。オスはエサを食べているときにメスが来るとさっとエサから離れ、メスファーストに徹する。もっとも、夢中でがっついていると、メスからは”蹴り”が飛んでくるのだが。

(イソヒヨドリのメス)
さて、オスの鳴き声はあさイチの朗々とした声が目覚まし代わりになるほどの音量だ。人も鳥も内耳にある有毛細胞が音を感知するのに重要で、人では大きな音を聞きすぎると有毛細胞が傷つくことが知られている(騒音性難聴、最近はヘッドホン・イヤホン難聴ともいわれる)。人ではこの有毛細胞が一度損傷してしまうと再生しないので取り替えが利かないが鳥の有毛細胞は再生もするし、騒音にも強い。どうやら鳥はそのライフサイクルに合わせて聴力を変化させているらしい。きっとイソヒヨドリのオスもメスも、鳴く⇔鳴き声を聞き分ける春に聴力が1年で一番鋭敏になるのだろう。
イソヒヨドリのメスであるということは、冬の寒さが解けるころ無性に人肌(鳥肌!)が恋しくなり、青とオレンジが他のどの色よりも美しく見え、オスの鳴き声の良し悪しをショパンコンクールの審査員並みに判断できる耳になることなのかもしれない。
そんなことをつらつら考えていたら、ようやく中古住宅にツバメの夫婦が入居してくれ、リフォームもそこそこに4羽のヒナをかえしていた。
ツバメは日の出からヒナに餌を運ぶので、5時前後にヒナが一斉にビービー鳴く。そしてその声が目覚ましだった。今年は静かで確かに寝不足にならずに済んだが、その分なぜか寂しかった。
静かな原因は今年の親は完全な2オペ育児でヒナの数も4羽と少な目だからである。細かいところまで行き届いた親の育児でヒナがお腹を空かせている時間が短いので、無駄に鳴かないのだ。そんな子育てを見ていると、巣からヒナが落ちてくることは早々にあきらめざるを得なかった。これも寂しさの原因だったのだろう。
2年前に巣から落ちたツバメ(=ふう、過去のブログを参考に)を育てていた頃は、人に慣れすぎると南国に渡っていかなくなり、ツバメらしい人生(鳥生か!)が送れないかもしれないことを心配していた。しかしこれは無駄な心配だった。渡り鳥を飼育していると、特定の季節になると渡る方角に向けてぴょんぴょんと飛ぶ、渡り衝動がみられるという。渡りは考えての行動ではなく、渡らずにはいられなくなるのだ。
最近の研究によると、渡り鳥の片目には磁気センサーがあり、地球の磁場を感知できる。渡り鳥は地図とコンパスをその体に内蔵しているといえないだろうか。
ツバメであるということは、夏が終わりに近づくと急に食欲がわきでっぷり太ると、片雲の風に誘われて、南方への思いがどうしようもなくやまず、数千キロ飛び続け、春になると今度は北に戻ってくる、と言うことなのだ。だとしたら、ギリギリ9月の終わりごろまでうちに通ってくれていた”ふう”は、渡る衝動とこっちに残りたい気持ちとの間で揺れ動いてたのだろうか?もしかしたら、毎朝、毎朝、一緒に渡ろうと私たちを誘っていた!?
こんな風に想像することが、”人であること”かもしれない。