院長ブログ

2023.07.30

迷走神経(1)

テルマエロマエにも出てくる哲学する皇帝=マルクスアウレリウスはその著書「自省録」の中で、前回の私と同じようなことを書いている。
「誰しもが憩いの場を求めたがるが、そのような場だけが休息なのではない。憩いの場所を自分の魂の中に見出すこと、そうすればいつでも好きな時に行ける。そう、その場所が自分の中に備えてあれば、充分に休息できよう。この安らかさはよき秩序に他ならない」と。
高潔な魂の割には(ゆえに?)政治にも家族でにも苦労したマルクスアウレリウスの魂の声であろう。ただ、マルクスアウレリウスはアヘン中毒だったらしい。ちなみに、これを知った時、私はものすごいショックを受けました。

今回からは”自分の中の憩いの場”は作るものでも、ましてや薬で到達するのでもなく、すでにある、備わっているもの。ということを考えてみたい。
例えば蛇やゴキブリが目に入ってきたとする、とっさに胸がドキドキしないだろうか。こんな時は交感神経が活発になっている。瞳孔が開き、消化や排せつが抑えられ、身体が”動ける”状態になっている。対してバリ島でヨガをやっている時の私は副交感神経の作用で”落ち着いた”状態になっていた。この2つの神経を自律神経といって、意識しなくても身体が健康に生存するように心拍、呼吸、消化などを制御している。身体の自動操縦装置ですな。
さてこの自律神経で、副交感神経の8割を占める大きな神経が”迷走神経”である。脳と心臓、肺、消化器を結ぶために、広範囲に走行しているので”迷走”神経と名付けられたが、当の本人の”迷走神経”は迷走なんかしていないで、目的をもって広く走行している。何のために?と言えば身体をモニタリングするためである。迷走神経は身体を逐一モニタリングし、それを脳に伝え、脳の決定をまた身体に伝えるために。
ここまでを読んで「はい!副交感神経ね、リラックス神経ですよね。迷走神経がそれにあたるんですね。はいはい元々備わってますよね。」と、事はそんなに簡単でもないらしい。
コロナの予防接種の問診で、「今まで、注射で倒れたことありませんか?」と聞かれなかっただろうか?ストレスを感じると心拍数や血圧が下がり、それによって意識が遠のく迷走神経反射の既往を確かめているのである。注射はある意味大きなストレスなので、あらかじめ問診でそんなタイプの人を見つけ、倒れてもいいようにベッドで寝ながら接種するための問診だ。
あれ?迷走神経ってリラックスさせる副交感神経なんじゃないの?とここで疑問がわいてこないだろうか?リラックスしすぎて倒れるという説明には無理があろう、失神を起こしてしまった人がリラックスしているとは思えない。
この迷走神経のリラックスと失神という正反対の作用についての疑問は、進化を考えることで答えが出るらしい。次回はその点を書いてみたい。