院長ブログ
2023.09.24
「悪魔の手毬唄」考
ミカンの早生がスーパーに並ぶようになったら、もうすぐ”由良”の時期になる。酸味と甘みのバランスがよく、薄皮で剝きやすい”由良”は私の柑橘類ランキングでは最高峰にランクされる。
ここ数年、この”由良”をよく見かけるようになったから、”由良”と聞けばミカンを連想する人は多いだろうが、私のように”由良泰子さん”(ゆらやすこ)を思わずにいられない人は少ないと思う、というか沼津では私一人ではないだろうか?
湖畔から足が突き出ている死体シーンがセンセーショナルな「犬神家の一族」と比べると地味だが、手毬唄の1番♪升(マス)で測って漏斗(ジョウゴ)で飲んで~♪という歌詞になぞらえて殺された娘が”由良泰子”さんである。
過去のブログでも「悪魔の手毬唄」について絶賛しているが、できる限りざっくりあらすじを説明しよう。
金田一耕助(石坂浩二)は休養をとるつもりで鬼首村の亀の湯にやって来る。磯川警部(若山富三郎)がこの亀の湯を紹介した目的は金田一に20年前の事件を解決してもらうためだった。20年前の事件とは神戸での仕事を失い、故郷に帰ってきた亀の湯の青池源治郎が詐欺師:恩田幾三に殺され、恩田の行方は分からないという内容で、被害者の顔が囲炉裏で焼かれ判別が難しかったが、第一発見者である、妻のリカ(岸恵子)の証言で殺されたのは源治郎と言うことで決着がついている。そのリカは亀の湯のおかみとなり、息子:歌名雄(北公次)と娘:里子(永島瑛子)を育ててきた。
金田一の滞在と同じ時、鬼首村出身で芸能界のスター:大空ゆかり(仁科亜希子)が故郷に凱旋してくる。村の若者は大盛り上がりだが、年寄りたちは「詐欺師で殺人犯の恩田の娘のくせに」と渋い顔をして大空ゆかりとその母を迎える。そしてここから手毬唄に見立てて娘たちが殺されていく。一番目は私が由良ミカンを食べるたびに思い出す、由良泰子さんだ。二番目は仁礼文子さんで、この二人は歌名雄の嫁にと言う話が出ていた。この進行形の事件が縦糸としたなら、横糸は20年前の事件で、殺された泰子さんも、文子さんも20年前の犯人とされる恩田幾三の子供と言うことで絡んでくる。
登場人物が多いので、わかりやすくしてみました。
登場人物が多いので、わかりやすくしてみました。
こんな殺伐とした状況に、少し色を添えるのが磯川警部のリカへの思いだ。
ものすごい田舎にあって岸恵子は断然美しい。かしまし娘みたいに三味線を弾くシーンではスターのオーラが隠し切れないので、売れなかった女芸人と言う設定には無理がないだろうか。。。全篇を通じて「田舎にこんな美人いる!?」という疑念がぬぐい切れないのだが、実際、岸恵子はパリから帰国して撮影に参加したらしい。リカのオーラにそこはかとなくおフランスの香りが漂っているザンス。
憧れる対象が際立つ美人なので、磯川警部役の若山富三郎の慕情も伝わりやすい。磯川警部は20年前の事件は殺されたのが恩田で、犯人はリカの夫の源治郎ではないかと疑っていて、リカを20年前の呪縛から解いてあげたいと思っている「あんな男のこと、忘れてしまえばええんじゃ」と。
さて、手毬唄は3番目まであり、次の娘はゆかりだろうということで、周辺警備が強化されるなか、金田一は詐欺師:恩田が青池源治郎の一人二役であったことを疑い、証拠を入手するために神戸に行く、金田一不在の鬼首村で3番目の娘が殺される。殺されたのはゆかりではなく、里子だった。
恩田=源治郎であることは、20年前の事件の犯人はリカである、と同じ意味だ。そして夫が不倫してできた娘を息子の嫁にするわけにはいかなかったのだ。里子は母リカの犯行を目撃し、自分がゆかりの身代わりになることで、母に罪の深さを教えたのだった。
自分の子供を殺してしまってから、半狂乱になって犯行の告白をするリカ。
ところで、30年前に「ねるとん紅鯨団」という集団お見合い番組があり、告白タイムでは「お願いします」と手を差し出していたのを覚えている人はいるだろうか?
磯川警部の「あんな男のこと、忘れてしまえばええんじゃ」が「お願いします」なら、リカの「夫を心底憎めたら、むごい男と分かっていても、好きやった」は壮絶な「ごめんなさい」だ。傷ついた女を慰めようと20年間亀の湯に通い続けた磯川警部の姿を、リカは一度も視界に入れたことがなかったのだった。
ところで、金田一は、ミカンが鏡に映って二つになっているのを、二つあると勘違いしていたと気づくことで、恩田=源治郎を思いつく。やはり!!由良ミカンは「悪魔の手毬唄」から名付けられたのであろうか?そんなわけないか。