院長ブログ
2023.12.10
母は賢い
当院には2名のママがいる。一人はママになって3か月。もう一人は2年の。
その二人が口をそろえて私に言った、「私たちは出産してバカになった。物事をすぐ忘れる」と。
3か月のママの方は産休中なので、月々の社会保険料のことや最近では年末調整のことをきちんと連絡してくる。慰安旅行の出発日に休み中の病院予約を止めるのを忘れていたのと同じ人とは、とても思えないのだが。。。
2歳児のママは「最近ようやく物忘れが治ってきたような気がする」そうだ。(2年もたっているけどね)それでも、娘がなくしたアンパンマン・マグネットをすぐ見つけて渡している。まるで目がレーダーのようになっているみたいだ。もう数年したら子供がきっと失くすであろう”リカちゃん人形の靴”も彼女ならすぐに見つけるだろう。
本当に彼女たちはバカになったのだろうか?赤ちゃんを育てるリーダー=母親がバカ”になるような種はとても繁栄が望めないと思うのだが?
以前は成人になると脳の成長は止まると考えられていたが、今では新しい刺激に反応して一生涯成長し脳が変化できると広く認められている。脳は使うことで回路が新たに作られ、使い続けることで回路が強固なものになっていく。ロンドンのタクシー運転手は複雑な道を何度も通ることで、脳の記憶部分が大きくなっていることは有名だ。
スプーンを使うという程度の新しいことでも数十万単位の神経細胞を巻き込む変化が起こるのなら、抱っこ、おむつ、ミルクを繰り返す、母親の脳にだってそれ相応の変化が起きているはずだろう。
家畜のヤギは集団で飼育される。ヤギの赤ちゃんは乳ならだれの乳でも飲むらしいが、自分の子だけに乳を出したい母親は多くの赤ちゃんヤギの中で、自分の子供の匂いは嗅ぎ分けられる、という。同じほ乳類だから人間の母親も我が子を嗅ぎ分ける能力が上がっているだろう。ところで赤ちゃんの頭は良い匂いがする、ということで生まれて2週間くらいの赤ちゃんの頭の匂いを私も嗅いでみたのですが、頭皮(+母乳?)の匂いでした。きっと母親だけに良い匂いになるように設定されているのだろう。
そして、スタッフを見ていると、朝起きて朝食や自分や旦那さんのお弁当の準備、保育園に持たせるタオルや着替えなどなどに加え、小児科の予防接種の予約、加えて仕事と、限りある時間でのマルチタスクをよくこなしてるなと感心する。”バカになってしまった”脳ではできない芸当だ。
赤ちゃんが泣いている時も、おむつが汚れているのか?おなかがすいているのか?眠いのか?飽きているのか?疲れたのか?私には皆目見当つかないが、新米ママは「抱っこされていないからだと思います。抱き上げると泣き止みますよ」と私に的確なアドバイスを送ってくれる。そして抱き上げたら本当に泣き止んだ!顔を赤くして”ホワヮア~”としか泣かない生物の気持ちがわかるなんて、高度な共感以外の何物でもないではないか!決して頭が”バカになった”わけではないのである。
”使うことで回路が作られ、使い続けることで回路が強固なものになる”なら、子育ては待ったなしの学習だろう。赤点を取ることは許されない試練の日々だ。それをこなす頭は子育てに特化した脳になっているのだ。
五感が冴え、マルチタスクをこなし、共感力が高まったその能力は、考えようによっては仕事にも生かされる。近年、会社の経営責任者は言うまでもなく、首脳の中にも子育てを経た女性が増えているのはパワーアップしたからではないだろうか?
新米パパたちよ、かつて君が愛した守ってあげたくなるような彼女はもういない。君との赤ちゃんを得て、アメリカ軍のシールズのように”赤ちゃん特殊部隊”に、つまり別人になってしまったのだよ。そしてこれは私にも言いたい、忘れっぽいスタッフではなく、パワーアップしたスタッフが誕生したのだと。