院長ブログ

2024.05.22

むかしの男

内輪でやっている分には”めこぼし”もしよう。だって私は外側にいるから。
時代劇専門チャンネルのなかだけで新しい鬼平犯科帳がみられるのなら、時代劇を供給する側と時代劇ファンの間で終わる”内輪”なのだから、CS放送に加入しなければいいだけのこと。だから新・鬼平犯科帳がタクシーのデジタル広告で流れている時は傍観者でよかった。その線から出て、私の目が届く場所に入って来てはいけなかったのに、こともあろうか一線を越え地上波に顔(ツラァ)出してきやがった。これは舌打ちせねばなるまい。
中村吉右衛門が長谷川平蔵演じる鬼平犯科帳は、あまたあるTVドラマの中でもとりわけ思い入れが深い物件である。
鬼平は時代劇屈指のコンテンツだからリメイクされる予感は薄々感じていた。だって元をただせば吉右衛門だって4人目の平蔵(初代の平蔵役は吉右衛門のお父さん)だから。晩年のスペシャルで吉右衛門の甥、市川染五郎(今の松本幸四郎)の出演は、次の平蔵襲名への布石か!?と、私の勘ばたらきを刺激したが、その後も10年以上鬼平に関しては音沙汰がなかったので安心しきっていた。そんな中でのリメイク、地上波での放送なのだった。もう青天の霹靂とはこのこと、私の心を畜生ばたらきする様な行為である。
今もなおBSフジでオートリバースのように再放送をされている全9シリーズを暇さえあれば見ている私には、吉右衛門をはじめ何人かのレギュラー陣が亡くなっていても、彼らが今も江戸の町を躍動しているように思える。中でも第1シリーズはその魅力が全部詰まったものと言えよう。密偵らが次々に仲間になっていく逸話はもちろんのこと、平蔵の剛の部分、あるいは情、そして艶がまんべんなく描かれている。
19話は、平蔵の不在から始まる。妻、久栄にむかし関係があった男から手紙が届く。この男は元は久栄や平蔵の近所に住んでいた武士だったが、久栄をだまし、盗みや殺人を犯し、今では盗賊の手下に成り下がっていた。過去の関係をネタに仲間を牢屋から釈放してもらおうと久栄をゆする。平蔵への愛が大きければ大きいほど、返す刀のようにむかしの過ちが胸にのしかかる久栄は、苦悶しながら過去が顕わになっても、と覚悟を決める。。。
事件が解決し、平蔵も帰ってきて捕まえたむかしの男と対峙するシーン。「俺はお前の女房の最初の男だ」とマウントをとる相手に放つ言葉で長谷川平蔵という男がわかる。久栄役の多岐川裕美がリハーサルから涙ぐんだという19話、一見の価値ありと思います。
さて、こんな小姑みたいな前作ファンを黙らせる”何か”はないのだろうか?最大の”何か”が新・鬼平は吉右衛門の甥っ子、というだけでは物足りない。柄本明が演じた「むっつり十蔵」の小野十蔵を今度は息子の柄本時生がやるって事がプラスされても不満だ。もう、おまさ演じる梶芽衣子を「むかしの女」で出演させるくらいやってくれないと黙らないよ!
今回放送された「本所・桜屋敷」を見比べてあれこれ言うことはたやすいがそれはしたくない。
鬼平:彦十=吉右衛門:江戸家猫八、(  ):火野正平という算数の比率のような問題があるとして、現時点での最適解は松本幸四郎なのだろう。今の60代の人は「傷だらけの天使」とか「蘇る金狼」あるいは「赤いシリーズ」らがリメイクされた時どうやって心を落ち着かせたのか?ホント聞いてみたいわ。