院長ブログ
2024.06.02
がい耳道真珠腫
6月の誕生石は真珠で、日本人が一番持つ宝石だそうだ。
真珠の命ともいえる美しい光沢は、養殖のためアコヤ貝に植えた人口核の表面にできる真珠層によるものだ。層が厚く、均一なほど光沢感が増す、つまり価値の高い真珠が産まれる。「アコヤ貝ならずとも、人間も真珠と呼ばれるものを作るんだよ」という話を今日はしてみたい。
さて、3年前の今頃、ブログで初めての”がい耳道シリーズ”に着手した。この時期になると学校検診の結果の紙を持ってくる人が増えてくるせいだろう。検診で最も指摘されるのは「耳垢栓塞」で、なんか難しい漢字が並んでいるが心配ない。その漢字の意味から離れ「鼓膜が見えません」という検診医からのメッセージである場合がほとんどだから。
3部作のなかでも「外耳道耳アカ篇」がいまだによく読まれている。世の人は私が思うより遥かに外耳道、耳アカについて考えているのだなと、学習させてもらった。それを踏まえ世に放った(?)昨年の「がいじ道真菌症」は意欲作でもあるのだが、耳アカ篇に比べると読者は少なかった。。。そこで、今回は外耳道の最終バージョンともいうべき「外耳道真珠腫」についてあれこれ書いてみる。
「耳垢栓塞」「外耳道真菌症」「外耳道真珠腫」と漢字で並べて書いてみると、真珠腫が断然!響きがいい。これは真珠のもつ美しさを連想してしまうからだろう。宝石の中に在っても真珠がすぐに見分けられるのと同様に、外耳道真珠腫も見た目だけで診断できる。外耳道を見慣れた者であれば、診断は容易だ。
(右:外耳道真珠腫、左:正常 矢印の部分が真珠に見えるか!?)
外耳道真珠腫は外耳道が本来持つ皮膚の艶(バリア機能)と垢を自動で排出する能力を失わせてしまうので、汚い耳垢が付いてくる。真珠の美しさとはえらい違いだ。そして進行はゆっくりだが外耳道の骨を破壊してしまい凹凸ができると、取り切れない耳垢がたまることになる。とはいえ、熱や痛みが出ることはほとんど無い。ただただ自分でとれない耳垢がたまる病気だ。
この病気で定期的に掃除をする患者さんを前にすると、私は自分がシーシュポスになった気がする。神々の怒りを買ってしまい石を山頂に運ぶ罰を与えられる、シーシュポスに。一生懸命重い石を運ぶが山頂に置いたとたん、また転がり元に戻る、シーシュポスはそれを何度も繰り返す。何度外耳道の垢を清掃しても、またたまっている外耳道真珠腫の治療に似てないか!?
しかし、その中にあってこの病気に真珠を見た人にはとても感謝したい。不条理とも思え、心が萎えがちなシーシュポスも真珠を見つけるとちょっとワクワクするもんで。