院長ブログ

2024.06.23

マネジメント

脊柱を横から見るとS字状の形をしている。これは重い頭を支えて直立するためにはどうしても必要な構造だ。生まれたばかりの赤ちゃんの脊柱は丸まっているが、立ち、歩き始めるとS字状になってくる。体操競技の着地ポーズはこのシェイプをことさら強調して見える。うちのスタッフの体操経験者に言わせると、着地での重力からの衝撃を和らげ、ブレないように踏ん張るとあの形になるのだそうだ。
水泳というスポーツは重力があまり影響しないので、脊柱へのアプローチも体操競技とは異なる。この水泳を物理的にまとめると、水中での推進力と抵抗のスポーツと言える。タイムが速くなるということは推進力が上がったか、抵抗が減ったかということになろう。
ここで私の水泳を一つの製品と考えてみよう。唐突であることは否めないが、考えれば水泳のタイムは客観的な指標としては優れている。ジョギングのようにコース、天候によって左右されない。清水町で泳いでも長泉町でも「25m」だから。製造元はというともちろん”私”だ。株式会社”私”でもいい。ついでに顧客も私だ。
顧客の私は20代からこの品を愛用し、ウォーミングアップの後は2分前後のインターバルで100ⅿを最低8本泳ぐことのヘビーユーザーだ。(インターバルの説明:100ⅿを泳ぎきる、最初のスタートから2分経ったら次の100mを泳ぐ、これを8から10回繰り返す)製品の良し悪しは100mを泳ぐ時間とインターバルタイム(最近の私なら2分)と二つの指標で測ることができる。
顧客が20~30代の頃はニーズが「速く泳ぐこと」であったから、製品改良は推進力を上げること!と会社一丸となって取り組んできた。筋トレ、泳ぐ距離を増やすetc、会社にも余剰体力があったからそれに答えることもできていた。この頃、インターバルタイムは2分で変わらないが、100mを泳ぐ時間は1分30秒で最低12本くらいはできていた。
顧客が年をとり、50代になると「できるだけ永く泳ぐこと」にニーズは変わってきた。距離を長くではない。この製品をもっと年をとっても永く使い続けたい!に。
そのためにはまず、会社が倒産してもらっては困る。40代の頃、余剰体力に任せて”イケイケどんどん”のつけが回って肩を壊し、しばらく泳げなかった時期があった。会社でいえば工場が壊れ製品を世に出せない状態だったのである。40代だから工場を立て直せたが、これから60代になる会社にとって、ケガをしないことは顧客のニーズに答える最重要な目標であろう。
次に製品改良の軸を”抵抗を減らす”に移した。水泳を習う時,最初に習得すべき必須の技術は”けのび”である。この形を極めることで、水から受ける抵抗を減らせる。ここで冒頭の脊柱の話とつながるが、この”けのび”の姿勢では脊柱の弯曲をできるだけなくすことが断面積を減らすことにつながる。お恥ずかしながら、泳ぎ始めて30年以上経って、初めてこの形の奥深さを実感している。

(”けのび”のイメージ絵、イルカの姿勢と共に)
また、まっすぐブレないように泳ぐ工夫として、腕を回すよりも肩甲骨を回転させる意識で泳ぐようにした。この意識で肩の痛みが無くなったという利点があったことを付け加えよう。そんなこんなで、今は同じ2分のインターバルで1分45秒では泳げるようになっている。再出荷し始めた10年前からは、サークルで15秒、泳ぎで5秒短縮され製品が改良されている。会社は劣化しているのにだ!
また、効率のよい製品になったため、8本から10本と耐久も12.5%アップした(当社比)。
先日久しぶりに清水町のプールで泳いでいたら、顔見知りの方に「なんか前より早くなっていない?どうしたの?」とわが社の製品が褒められた。いろいろ機密事項(?)もあるので「ん?ドーピングかな」と冗談で言ったら、「やっぱり!」と言われてしまった。なんで「やっぱり」?
さて、自分から生み出される製品は何も水泳だけではない。仕事、日常生活など、自分という会社は実に様々な製品とそれぞれに顧客を持っている。決して私だけに当てはまることではなく、自分の意思決定こそが自分を経営し、製品を管理している。英語ではこれをマネジメントという。
人は生まれながらに自分だけのマネージャーではあるということだ。マネジメントするのに特別な能力は要らない。「マネジメント」で有名なドラッカーも言っているではないか、「必要なのは真摯さ」と。