院長ブログ

2024.07.15

西伊豆にて

西伊豆の宿では堂ヶ島の風景を見ながら夕飯をとっている。
ここに来るまでは3連休の影響でかなり渋滞していたが、車の中での他愛もない会話と音楽がドライブを思ったより快適にしてくれた。車の中で聞いたのは私のi-tuneにあるお気に入りの曲たちであって、なんとも思い入れがない曲だったらイライラしたに違いない。
ところで、その曲を好きになるとはどういうことなのだろうか?
ベートーベンの交響曲第9で感銘を受け、年末に合唱に参加する人もいれば、私のようにどん兵衛のCMを口ずさむ人もいる。
音楽という経験を決定するのは情動なのだろう。第9の壮大な美しさにプラスの情動を体験すれば「♪フロイデ~シェーネル~」となるし、どん兵衛のCMにうけてしまった私は「♪し~ごと納めば~」と歌うのである。
情動が好きな曲を決めるのなら、プラスでもマイナスでも情動が振れやすい10代で耳にした曲を好きになるのは自然なことだろう。
10代での一番重要なイベントは大学入試だった。望んだ大学に合格できなくて、浪人生になった私には、大学生初の夏休みを過ごす高校の同級生と比べて、同じ夏休みでも夢にはまた遠い一日のように思えた。特に夜は危険だった。ベットに体を横たえてから寝るまでの時間は不安に苛まれ、自分を否定する時間に変わってしまう。そんな灰色の日に幾度となく励ましてくれた曲は好きにならずにいられないだろう。そんなことあらためて書かなくても、誰でもお気に入りの曲があり、それには自分だけの思い出とリンクして感慨にひたらせてくれる。

本当は西伊豆にいるはずではなかった。厳正な抽選の結果、チケットがご用意されていたのなら今頃私はレベッカのコンサートで跳ねていただろう。曲を流しながらここに着き、その頃を反芻しながら夕食をとっている。先付のムースに乗っていたキャビアは灰色だった。灰色の日とはえらい違いだ。コースが進み、日が沈んでさっきまでの窓には部屋の調度品が映っている。
コンサートには行けなかったけど悪くはない。