院長ブログ

2024.09.11

子宮頸がんワクチン(最終)

世界には1日2ドル(300円くらい)で生活をしている人がいる。
そこでの暮らしを想像してみよう。
子供たちは彼らが裸足で歩いて汲んできた泥水で作ったお粥を食べている。それでも食べられるだけましだ。凶作の年には食べられないこともあるのだから。まだ生まれたばかりの末っ子の下痢が続いているが、治療をするお金は無いので、この子は死んでしまうだろう。貧しい暮らしの子供は死ぬ確率が高く、原因の2割が下痢だから。もう4ドル余計に稼げたなら、子供たちにサンダルの一つも買ってやれ、鶏を飼って卵を食べることができるだろう。お金をためて自転車が手に入ればきれいな水場にも行けるだろう。でも病気にかかったら、せっかく手に入れたものを売らなければならない。そしたらまた1日2ドルの生活に逆戻りだ。
貧困から抜け出すために健康は必要十分条件である。
マラリアに罹らないと、マラリアに罹った子に比べ将来の収入が50%増える。妊娠中にヨウ素、鉄などの微量栄養素を摂れば、子供は学校に長く通える。病気に煩わされることなく生き延びれば、学歴が伸び、就職して給料をもらえる大人になれる。一家に一人、給料がもらえる者が出るだけで生活は一気に楽になる。
政府やNGOはマラリア撲滅のために蚊帳を、健康な子供に育つために栄養素入りの塩を配ることで、脱出用ハシゴを下ろしているが、「面倒くさい」「食事に口出すな」「政府を信用しない」と登るのを拒否している。子供にワクチンをきちんと接種する母親は38%だという。
この現実をどう思うだろうか?
先進国に生まれただけで、蛇口をひねれば水道は出る。医療も政府もおおむね正しいことをするだろうから信頼できる。有名な投資家ウォーレンバフェットに言わせると、”先進国に生まれるということは、子宮の宝くじに当たるようなもの”だそうだ。
せっかくハシゴ下したのになんで登らないんだ!これだから貧困者は!と批判することは、エアコンの効いた部屋のソファーで寝そべり、外で仕事をする人にだらだらすんなよ!と思うようなものかもしれない。
今の生活に余裕がないのに、未来の健康にエネルギーを割くことは難しい。
子宮の宝くじに当選した、日本の女の子に子宮頸がん予防のワクチン接種(キャッチアップ)の機会が与えられた。これはワクチンの副反応騒動で定期接種が見送られた世代への特別措置である。来年の3月でこの措置は終了するので、きちんと3回打つにはもう日がない。
接種率は8割は行くだろうという医療+行政の予想に反して、2000年度から2008年度生まれでは3割以下の接種率だ。貧困者のワクチン接種より率が低い。これは何故だろう?
お金に余裕がない貧困者と同じような選択をさせている原因は?先進国の人は何に余裕がないのだろう?考えてみるのもいいのではないだろうか。
さて、私の姪は現在中学3年生。お盆に会った時、「いろいろ忙しく時間がないから子宮頸がんワクチンをまだ接種していない」と言っていた。親を差し置いて、あれこれ言うことは控えていたが、お小遣いを渡すときぐらいは”もの言うおばさん”になり、脅してハシゴを登らせよう。
「”今年中に1回目の接種”という目標に達しなければ、お年玉はあげないよ!」