院長ブログ
2024.10.14
ネガティブ・ケイパビリティ
前回のブログで、株で損しても得することとして「マイナスをマイナスのまま受け入れる」を挙げさせていただいた。
同じよう(?)にイギリス人のジョンキーツも”不確かさや、不可解なことや、疑念の中に在っても、早急に答えを求めずイライラせずにいられる能力は大事な資質である”と書いている。
同じよう(?)にイギリス人のジョンキーツも”不確かさや、不可解なことや、疑念の中に在っても、早急に答えを求めずイライラせずにいられる能力は大事な資質である”と書いている。
含み損は含み損。確定しなければいいだけのこと。を詩人キーツの言葉で伝えたいわけではない。だって、含み損を毎日見てイライラしないはずがないもの。キーツが見つけたこの能力は、株で実感するのではなく、仕事で実感することが多い。
病気には原因が特定できるものと、そうでないものもある。めまいや難聴は特に原因がはっきりしない傾向がある。
何件も耳鼻科を回り、その都度”めまいの原因”について尋ねているが、これと言った原因を今までの耳鼻科は説明してくれない。と受診される人も時々来院する。中には「どこどこ病院からはこういわれ、なになに病院からはこう説明を受けた。で、原因を教えてください」と言われることもある。
ネタを披露しようと思っている時に黒柳徹子に「それで、あなたとっても面白いことがあったんですってね」と振られる芸人の気持ちがよくわかる瞬間でもある。けれど、こんなことで感情を揺り動かされてはいけない、外科医が手術で回復した時に「一体どうなってんだ!がんだらけじゃないか!」と手術室で叫ばないように、私も客観的な検査結果に集中する。一通りの検査、診察を終えて、自分なりの原因を説明しても、このような人に納得してもらえることは少ない。数分の説明で納得できる人なら、そもそも当院に来ていないだろう。
ここで、以前は意地になって納得させるようにしていたと思う。開業当初は”治す”こと至上主義だったから。もちろん”治す”ことをあきらめてはいないが、”治す助け”をする意識に変化していると思う。この意識のおかげで、”治せないこと”に私がイライラすることも無ければ、”治せないこと”で”治せる”ように学ぼうと考えられるメリットもあった。
”治すこと”だけが正義ならば”治せないこと”は悪になる、白黒つけずに宙ぶらりんでいることで発展することもあるのだ。この能力を”ネガティブ・ケイパビリティ”とキーツは名付けた。
私だけでなく、原因発掘隊の患者さんも、これを身につけられたら、本人も(場合によっては家族も)楽になるのにな。と思う。件の患者さんには、めまいについて最新の検査がそろっている大学熱海病院を紹介した。返書には「認知のゆがみを指摘した」と書いてあった。検査では出てこない。
仕事も病気も人生も不確かな物だ。不確かさをありのままで受け入れることは、幸せに過ごす技術なのだろう。