院長ブログ
2025.01.29
体内時計
打製石器から人工知能(AI)まで、テクノロジーを発展させた人類だから、したいことをいつでもできると思い込んでいやしないだろうか?コンビニでは24時間住民票が取れるし、健康上困った時は夜間救急もあるしで。もちろん、好きな時にしたいことがやりたい放題できるわけはない。私たちの身体には地球で暮らすルールが埋め込まれていて、それを”体内時計”という。私たちの身体は、食べる、考えるという活動する時間と、眠るというメンテナンスの時間を繰り返し最適に生きるようになっていて、それはおおよそ24時間周期の時計に支配されている。どうして24時間なのか?それは地球の自転が生み出す昼と夜の周期が24時間だからである。
地球ができたのが46億年前で哺乳類の誕生が2億年前ほど、私たち人類(=ホモ・サピエンス)に至っては20万年前に地球に参加した新参者だから、24時間ルールに従うしかない。
ちなみに、生物がどうやって体内でおおよそ24時間というリズム(=概日リズム)を刻んでいるかを解明した研究に、2017年ノーベル医学生理学賞が与えられている。
実は、身体のいろいろな器官(消化器、筋肉、神経などなど)も、それぞれに固有の時間を刻んでいる。例えば自分の家の各部屋にハト時計があるような状況を想像して欲しい。もしも時計がそれぞれ微妙にずれていたら?正午12時にはあちこちで12回”ポッポー”と鳴くので、すべてが聞こえるような部屋にいると、「一体何回鳴いたんだ?」と混乱してしまうだろう。身体も混乱しないように、脳がマスターとなって同期させている。まるで指揮者のようにタクトを振ると、消化器系、ホルモン系、運動系、免疫系などの各パートが協調し音を奏でるように。
そしてそのリズムと、太陽が作る昼夜のリズムが合っている時には、健康という美しいシンフォニーが身体を流れるのである。
自分のリズムと太陽のリズムが合っていないと、どうなるのだろう?皆さんは海外旅行をして時差ぼけになったことは無いだろうか?
(カナダを旅行した時の写真。着ている量に注目。この女性は「赤毛のアン」の作者のモンゴメリの玄孫)
「赤毛のアン」の舞台、プリンスエドワード島の緯度は樺太(からふと)と同じくらいだから、この時は10℃くらい。私は旅行中、寒くて寒くてたまらなかった。ツアーを巡る運転手さんは半袖のポロシャツを着ていたのに、とにかく寒かった。旅行中は緯度の高い寒いところに来たからと思っていたが、今はそれだけではなかったと思っている。プリンスエドワード島と日本の時差は12時間。この写真を撮った時は現地時間では午後2時半だけど、私の体内時計では午前2時半、つまり、いつもならぐっすり寝ている時間なのである。寝ている時間は体温は低くなっている。私の体内の時計では寝ていることになっていたから、ひたすら寒く感じたのだろう。
慢性的な時差ぼけを起こしうる職業(例えば夜勤業務従事者)にはいろいろなリスクが伴う。糖尿病、がん、認知症。そりゃそうだろう。地球のルールに体が反しているのだから。
私もルール違反の罰を受けた。現地に居れば現地の時間に合ってくるので、日本に帰ってからもう一度往復ビンタのように時差ぼけに苦しんだ。夜中の0時にお腹が空き(だってプリンスエドワード島ではお昼だもん)、カップラーメンをすする。暗く眠る家々をベランダから眺めながら、カップラーメンをすすると「こんなことしてていいのかな?」という圧倒的な罪悪感に苛まれた。今まで生きてきた中で、一番自分はダメ人間だという思いに駆られた瞬間でもあった。これをルール違反の罰と言わずして何が罰であろう。