院長ブログ

2025.02.09

ヒュプノスハント

昨年発売された「ドラクエⅢリメイク」の中で、敵に最大のダメージを与える技は、盗賊が繰り出す”ヒュプノスハント”だ。ラリホーで眠りについている敵に対して通常の6倍のダメージを与えられる。ビーストモードや、はやぶさの剣(2回攻撃)、バイキルト、戦いのドラム(攻撃力アップ)などでダメージアップが跳満みたいに乗じると、一発決まるだけでラスボスが倒れてしまうという禁じ手だ。
このヒュプノスハントの技の名前はギリシャ神話での眠りの神ヒュプノスに由来している。ヒュプノスは夜と暗闇の間にできた息子で、死(=タナトス)と双子の兄弟という関係だ。この設定から、ギリシャ時代の睡眠は嫌われ者的な扱いであったことが想像できよう。が、現代では、睡眠を味方にすることこそ、生活の質が上がる大前提!という認識が拡がってはいるようだ。もしかしたらドラクエでの信じがたい設定は、ラスボスであっても、活動中(=戦闘中)は眠ってはいけないよ!眠るのなら夜に眠ろうね。という戒めが込められているに違いない。
ところで、都会の街をずっときれいなままにしておくためには、夜間に道路を直しラインをきれいに引く、ごみを集めて処理場へ持っていくなどの作業を必要とする。脳も神経を修復する、老廃物の処理をする、を必要としている。都会の人達が大量にごみを出すように、身体じゅうで一番エネルギーを使う脳だって沢山の老廃物を出す。素晴らしいことに脳にも街と同様な処理システムが備わっていて、それは眠っている間に働く。
もし、夜間掃除の人達がストライキを起こすと街はそうなるのだろう?ゴミが道路にあふれ、車は通れなくなる。悪臭も立ち込めて、不潔で、感染症が流行して健康に生活できなくなるだろう。睡眠障害という眠ることのストライキは脳の健康を害し、アルツハイマー病になりやすいことが知られている。アルツハイマー病はアミロイドβという老廃物が排泄されずに、街にゴミがあふれるようにたまり神経細胞を死滅させてしまうことで発症するからだ。
それで言うと睡眠時無呼吸症も立派にストライキを起こされている状態だ。
これは重症の睡眠時無呼吸の人の眠っている時の酸素飽和度である。酸素飽和度は血液中にどれくらい酸素(=細胞の栄養)が溶けているかで、健康なら96~99%だ。コロナの入院基準は95%以下だった。この患者さんは一晩のほとんどをコロナに感染していたら入院のレベルの酸素状態で眠っている。85%あたりをうろついている時もある。これは一般の人が平地の2/3の空気濃度である富士山の頂上にいる数値だ。4000ⅿ級のマッターホルンでは80%を切ってくる。この患者さんは1時から2時までは富士山からマッターホルンに登っていて、起きてようやく平地の沼津に戻ってくるかのような酸素飽和度の動きだ。高山病みたいな症状が出ないのかな?と聞いてみたら、朝は毎日頭痛で起きるそうだ。
私たちを取り巻く複雑な環境は厳しい要求をしてくる。そんな中で生きるには最適な身体と心の健康を維持できるかどうかが極めて重要になる。ヒュプノスハント、眠りが狩られると6倍のダメージを被るのは自分なのだ。前回の体内時計、今回の睡眠についての知識が、厳しい要求に対処するヒントになればと思う。