院長ブログ

2025.03.12

心の地図

静岡の地下街を抜け駅に入る。奥にある新幹線の改札を通って、上りのホームに立つ。三島に行く新幹線が右手から来るときに、「東から新幹線が来る。ホームを間違えた」と思ってしまうのだ。標示を見ているから大丈夫、と言い聞かせてもどうしても”静岡では三島=東に向かう新幹線が東からくる”感覚が湧いてくる。三島駅ではそれは起こらない。東京=東に向かう新幹線は西からくる
私は空間認知に問題を抱えているのか?確かに縦列駐車は苦手だ。
サバクアリはエサの少ない砂漠でうろつきまわりエサを求めるが、見つけるやいなやそれを抱えて一直線に巣まで戻る。これは人間で例えると玄関から出て、当てずっぽうに1日中歩き回った後、一直線に自宅にGPSを使わず帰ってくる、くらいの芸当だ。私の空間認知はアリに負けるのか?
けれど砂漠にしかいないサバクアリと違って、私は世界に拡がっているホモサピエンスのメンバーだ。おおよそ10万年前にアフリカを出て、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、オセアニアに空間認知を駆使して旅をし、行く先々で子孫を繁栄させたからこそ、文明が発達して新幹線にも乗れている。
北極圏で生きるイヌイットは狩猟民族で、どの季節にどこで何が捕れるかの知識、雪と氷の白い世界にあって、家を出てどこに向かいどうやって帰るかの認知は大切だ。人の空間認識は空間を移動する時に環境を知覚し、その特徴に注意を払うことで成り立つ。イヌイットだったら、太陽、影、岩などのランドマーク、風、風が作る雪の模様などなどなど。そうやって頭の中で認知地図(メンタルマップ)を作る。壁に貼り付けてあるような地図を思い出すのではなく、自分の頭の中にほとんど無意識に作り、それを記憶しておく。
認知地図の土台となる場所を記憶する”場所細胞”が脳にはある。まどろっこしい文章になるのを許して欲しいが、場所細胞がある場所は記憶を司る”海馬”という場所である。(この発見は2014年にノーベル医学生理学賞を受賞)この”海馬”はアルツハイマー型認知症で最初にやられる所で、患者さんが「ここはどこ?わたしはだれ?」となるのも、海馬の破壊で場所細胞も機能しなくなるから、と考えると腑に落ちる。
静岡駅での私の認知地図の狂いは、空、建物というランドマークが見えない地下街を通り、やはり風景が見えにくいホームに立ったからだろう。新幹線は南口だけど、方角は文字で知るものではない。ついでだけど、私はららぽーとの東西表示が苦手だ。ランドマークが見えないららぽーとの中で「誰が決めた。信じられん」とついつい思ってしまう。
となると三島駅ではなぜ認知地図が狂わないのかもわかってくる。三島駅はホームから富士山が見えるからだろう。富士山の位置を北として上りでも下りでも、それに合った認知地図を頭の中に描くのだ。それも無意識に。
とにもかくにも、自分がどこにいてどこに向かおうとするかは大切なことだ。実際の道でも、人生でも。